やる気のない右腕さん

わたしは長らく右手に軽い敵意を抱いていた……というかたぶん嫉妬していたのだと思う。

 

怠惰を煮詰めたようなわたしの体に属しているのに、本人とかけ離れて働き者の右手。

利き手なのだから右手がたくさん動くのは必然的なことだし、無くなったら困ることも分かっていたけれど、わたしは右手の存在が少し気に食わなかった。

 

かわいそうな右手。

 

わたしは左手を甘やかした。左手でできることも右手にさせた。

心の中で

「働けばいいじゃない。働きたいんでしょ」

と思っていた。わたしとは相いれない何かを右手に感じていた。いや、というより働き者の右手に対して劣等感があったんだと思う。

 

 

左手はまるでわたしのような存在だった。

右手が一生懸命ペンを走らせているのに、知らん顔で寝ている、膨らんだスーパーの袋を右手が赤い顔で運んでいるのに、肩からぶらさがってぼんやりとしている。

だからわたしは左手をひいきしていた。

 

「怠けたいよねぇ。右手は嫌味なやつだよねぇ」

左手にわたしは共感していた。

 

 

それが理由だったのだろうか、右手は反乱を起こした。

謎の病気になった。

手首の関節が膨らんで動かなくなった。

 

珍しい病気で、手術するしか治す方法はなかった。

 

しばらく、全部の事を左手でやるしかなかった。

字を書くのは遅いし、字はぐちゃぐちゃだし、メイクはいつも以上に適当だし、はさみは使えない、包丁を握るのは怖い。

不便、不便。

 

左手のダメっぷりがまるでわたしそのもののように思えてイライラした。

「いっつも右手になんでもやらせてるから、そうなるんじゃないの」

やらせてたのは左手ではなくわたしだ。

 

右手は包帯の中で大人しくしていた。

ひじまであるギプスが重たかった。

 

ようやくギプスが外れて、また右手が使える、と思って嬉しかった。

いじめてごめんね。左手のやつ、大分働くようになってきたけど、あなたには全然及ばないの、、、

 

「はい、指を曲げて」

医者の前で、右手は全く動こうとしなかった。

「指を、曲げて」

ドイツ語を聞き取れていないのかと思って、ゆっくり発音したらしい先生にわたしは情けなく

「曲げられないんです」

と言った。

 

固定されていたときの形のままで右手は全く動こうとしなかった。

なんて強情なやつ。

 

利き手でない方の手を使うと脳に良いらしいから、頭が良くなるかもしれない。

負け惜しみみたいなことを考えているうちに、左手も下手ながらいろいろできるようになってきた。

 

やればできる、まるでわたしのポテンシャルを見ているかのようではないか……

などと強がっていたけれど、正直不便だった。

 

幸いリハビリのおかげである程度の機能は取り戻せた。

でも、右手はもう力仕事をやらなくなった。

 

いじめていたからだろうか、と思う。

右手は怒っているのだろうか。

 

でも一番痛い思いをしたのも右手なんだから、こんな自爆のようなバカなことしなくても……

なんとなく右手にはじめて”わたしらしさ”を見出した気がした。散々我慢してみるものの、最終的には自分が痛い思いをしてでも自己主張をしてしまう、もう後のことなんて考えない。

 

やっぱりわたしの一部だったんだねぇ。

 

少し怠け者になった右手と、少し働き者になった左手と、あいかわらず怠惰なわたしは今のところ上手くやっている。

 

海外で急病&手術……しかし私は保険に入っていなかった!」に少し書いた出来事です。

 

スーパー美少女アイドルかつ可愛すぎる天才画家として有名なカワセリリちゃん(id:riri_kawase)が、会議で推薦してくれたというわたしのあだ名候補が『やる気のない右腕さん』だったと聞いたとき笑ったと同時に驚いていました。

 

でも会議(ってなんの会議?)の結果『やる気のない右腕さん』は不採用で『タンタン』が採用されたそうです。

 

なので”『やる気のない右腕さん』の方が良いよーーーー!”と書いたら

 

”『やる気のない右腕』にして、タンタンが本当にやる気がなくなっちゃうと困るって、会議の参加者の一人が言ってたよ。

だから、私が『大丈夫です。だってはじめからあの人にやる気なんて・・・』みたいに反論したけど、ダメでした。←”

 

とリリちゃんから返ってきました。残念。でも『やる気のない右腕さん』が気に入ったのでどこかで勝手に使わせてもらおうと思います。←